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最高裁判所第一小法廷 平成元年(オ)1489号 判決 1991年7月18日

上告人

岩田清

右訴訟代理人弁護士

野村裕

被上告人

草川清

被上告人

滋賀県信用保証協会

右代表者理事

久保義雄

右訴訟代理人弁護士

川村忠

被上告人

株式会社びわこ銀行

右代表者代表取締役

今井芳男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人野村裕の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない(同一の建物に二重の表示登記がされた場合において、先行の表示登記の申請人ないしその登記に基づく所有権保存登記の名義人が、その地位に基づいて、後行の表示登記ないしその登記に基づく所有権保存登記の抹消を求めることはできないと解するのが相当である。)。論旨は、ひっきょう、原審の認定に沿わないで又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官味村治 裁判官大内恒夫 裁判官大堀誠一)

上告代理人野村裕の上告理由

原判決には、判決に影響する法令の違背がある。

一 上告人が、原判決について法令の違背を問題とする点は、別紙物件目録(二)の建物についてなされた別紙登記目録一(一審判決の登記目録)、(一)の被上告人草川を所有者とする所有権保存登記及び別紙登記目録二(原審判決の登記目録)の同草川がなした表示登記の抹消請求並びにこれについての承諾請求について却下した点に関してである。

二 まず、物件目録(一)と物件目録(二)の建物は同一性ある建物であることは、一、二審ともこれを認定した。

三 上告人は、右同一性ある建物(物件目録(一))について、左のとおり登記を申請し、左のとおり登記簿上表示がなされるに至った。

1 昭和四九年五月九日申請受付・同日登記

建物表示登記(<証拠>)

2 昭和四九年五月一五日受付

所有権保存登記(<証拠>)

尚、原判決理由二、1にて「右両者共同経営の貸しビルにする目的で(一)の建物を建築し」右登記がなされたと、全く証拠なく、突如判決で「評価」されているが、これは論外である。上告人と被上告人草川との間に共同経営なる合意など全くない。

四 被上告人草川は、物件目録(二)の建物(但し、登記簿上、増築変更される前)について、左のとおり登記を申請し、左のとおり登記簿上表示がされるに至った。

(1) 昭和五〇年五月一七日登記

建物表示登記(<証拠>)

(2) 昭和五〇年五月二二日受付

所有権保存登記(<証拠>)

五 つぎに、上告人主張のとおり、物件目録(一)の建物について、昭和五一年九月売買契約が締結された(甲第二五号証の契約証書物件の表示に四階建三〇八平方米と記されている点は、甲第一号証の床面積合計が三〇八、七平方米であることに注意する必要がある)。

重要な点は、この時点で、上告人は被上告人草川の前記四、の登記の存在を知らないのである。

しかしながら、上告人草川は右売買契約に基づき一〇〇〇万円の支払義務あるにかかわらず、今日まで一円の支払いもしていない。

六 そこで、法令の違背についてであるが、原判決は未登記不動産の二重譲渡の例を持ちだし(理由六、3)、或いは実体上の所有者の抹消登記請求の例を持ち出し(理由七)、結局、前記五、の売買契約により被上告人草川が本件建物の所有権を取得しており、「所有権を喪失した」上告人の訴えは、権利保護の利益を欠くとして、請求を却下したのである。

七 しかし、これが上告人の本件登記抹消及びその承諾を求める請求に対する法律判断となっていないことは明らかであろう。

上告人が本件登記抹消等の請求根拠として主張してきた点を要約してまとめると

1 不動産登記法第一五条を拠り所として

2 また、物権変動と登記との合致の必要を拠り所として

3 又は、真実の所有者として表示登記をなし、これに基づき表示登記がされ、これを基礎に所有権保存登記名義人となった事実乃至地位を拠り所として

4 被上告人草川の前記四、の各登記について、全く関与も承諾もしていないという事実に基づいて

ということである。

そして、この上告人の請求が認められる必要があるのは、当然であろう。上告人と被上告人草川との昭和五一年九月の売買に基づき、本件建物について同人が所有権について登記名義人となるのは、前記三、の上告人の所有権に続く移転登記の形となる。

これに反して、上告人として預かり知らぬ、被上告人草川の前記四、の所有権保存登記が同人の所有権を表示するなど論外である。

かかる議論が通用するとなれば、自己所有地を建物建築の目的で貸し、その借地人の依頼で建物を建築し、その後、右借地人が建物を不要とする事態となり(借地契約の解約)土地所有者が建物の買い主となり売買契約を締結し、この建物の未登記に乗じて売り主の承諾もなく、何らかの方法で(虚偽の建物建築証明・引き渡し書等に基づき)表示登記、そして所有権保存登記を手にすれば、売り主はその各登記を争えなくなるという結果となる。しかも、売り主としては一円も支払を受けていないとしても登記を争えないという事態となる。これは認めることの出来ない議論であろう。

まさに本件は、この種のケースなのである。原判決が検討した前記六、の事例は、全く本件に妥当するケースでない。

原判決が、前記四、の被上告人草川の各登記手続きに対する上告人の承諾・関与の事実をまったく認定せずして(本来、この点に関する主張責任は、被上告人草川にあるが、被上告人らは、この点について主張をしていない)、本件上告人の請求を却下した点は、法令の違背であること明確である。

別紙物件目録

(一) 大津市竜が丘四一八番地二〇

家屋番号 四一八番二〇

種類 事務所

構造 鉄骨造陸屋根四階建

床面積 一階 78.63平方メートル

二階 76.69平方メートル

三階 76.69平方メートル

四階 76.69平方メートル

(二) 大津市竜が丘四一八番地四三、四一八番地二〇

家屋番号 四一八番四三

種類 居宅

構造 鉄骨造陸屋根三階建

床面積 一階 78.73平方メートル

二階 83.78平方メートル

三階 79.85平方メートル

別紙登記目録一

(一) 大津地方法務局昭和五〇年五月二二日受付第一一八九七号

所有権保存登記

(二)(1) 同法務局昭和五五年一〇月二一日受付第二五六四一号

根抵当権設定登記

原因 同月一五日設定

(2) 同法務局昭和五六年一〇月二一日受付第二三七四九号

根抵当権変更登記

原因 同月九日変更

(3) 同法務局昭和五七年一二月一六日受付第二八四二五号

根抵当権変更登記

原因 同月一五日

極度額 三〇〇〇万円

債権の範囲 保証委託取引

(三) 同法務局昭和五七年一〇月一五日受付第二三二二四号

根抵当権設定登記

原因 同日設定

極度額 六〇〇〇万円

債権の範囲 相互銀行取引、手形債権、小切手債権

別紙登記目録二

建物の表示登記

所在 大津市竜が丘四一八番地四三、四一八番地二〇

家屋番号 四一八番四三

種類 居宅

構造 鉄骨造陸屋根三階建

床面積 一階 78.73平方メートル

二階 83.78平方メートル

三階 79.85平方メートル

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